前回は、貸倒引当金を繰り入れるところまで解説しましたが、今回は実際の”保険”として貸倒引当金が使われる場面と、幸いにして使われなかった場合を見てみましょう。
貸倒引当金の使い方
前回の最後、「解ける!本試験問題」を【例3】とします。
すなわち、
【例3】
本日(X2年3月31日)決算につき、受取手形及び売掛金の期末残高(受取手形¥100,000、売掛金¥200,000)に対して3%の貸倒引当金を設定する。
【仕訳】
(借)貸倒引当金繰入 9,000
/(貸)貸倒引当金 9,000
この前提で、次に・・・
【例4】
X2年4月15日、玉喜商店が倒産し、X2年3月15日に販売した商品¥100,000の売掛金が回収できなくなった。
とします。
前回の【例2】すなわち、掛け売りと貸倒れが同じ会計期間に発生した場合は、売掛金(債権)の消滅に対し、全額「貸倒損失」勘定に計上しました。
しかし、今回ケースでは前期の売上(収益)に計上した売掛金が期をまたいで消滅しました。
こんなこともあろうかと、【例3】で前期末に貸倒引当金を計上してあるので、まずそれを充てて、足りない分を「貸倒損失」とします。
【仕訳】
(借)貸倒引当金 9,000
(借)貸倒損失 91,000
/(貸)売 掛 金 100,000
では、幸いにして【例4】のような貸倒れに見舞われなかった場合は・・・?
X3年3月31日の決算時に、貸倒引当金の残高を「貸倒引当金戻入」勘定で、収益(貸方)に計上します。
これは、もともと前年の決算時に「貸倒引当金繰入」勘定で、費用(借方)に計上したのを「戻す」ものなので、反対に貸方(収益)になります。
【例5】
本日(X3年3月31日)決算につき、前期末に設定した貸倒引当金の残高(¥9,000)を戻入する。
なお、当期中に貸倒れは発生しなかった。
【仕訳】
(借)貸倒引当金 9,000
/(貸)貸倒引当金戻入 9,000
しかし、翌年の決算時も、そのときの売上債権残高に対し、再び貸倒れのリスクを評価した上で、貸倒引当金をまた計上する必要があります。
そのとき、【例5】のように一旦、貸倒引当金残高の全額を戻入してから、再び貸倒引当金を設定し直すやり方を「洗替法」といいます。
しかし、簿記3級の試験では、次の「差額補充法」での計算が求められます。
「差額補充法」とは、前期末に設定した貸倒引当金の残高が、その時点で見込まれる貸倒れ額より足りなければ、差額を補充して「繰入」し、逆に余るほど多ければ、差額を「戻入」する、というやり方です。
【例6】
本日(X3年3月31日)決算につき、受取手形及び売掛金の期末残高(受取手形¥200,000、売掛金¥300,000)に対して、差額補充法により3%の貸倒引当金を設定する。
ただし、貸倒引当金残高は¥9,000である。
受取手形と売掛金の期末残高合計¥500,000の3%は¥15,000で、貸倒引当金残高¥9,000との差額¥6,000(不足分)を、追加補充で貸倒引当金に繰り入れます。
【仕訳】
(借)貸倒引当金繰入 6,000
/(貸)貸倒引当金 6,000
解ける!日商簿記3級 本試験レベル問題(貸倒処理・貸倒引当金)
【問題】
得意先が倒産し、前年度の売上にかかわる売掛金¥50,000が回収できなくなったので、貸倒れの処理を行う。
なお、貸倒引当金の残高は¥30,000である。
【THINKING SPACE】
【解答】
(借)貸倒引当金 30,000
(借)貸倒損失 20,000
/(貸)売 掛 金 50,000
【検定試験合否を分けるポイント】
実は、この問題で一番重要なのは「前年度」の売掛金というところです。
もし、今年度の売掛金が今年度中に貸倒れたら・・・
仮に貸倒引当金が残っていたとしても、それには手をつけず、全額「貸倒損失」に計上します。
なぜなら、同じ年度で計上している売上の収益を、同じ年度で取り消すので、全額当期の損失でいいのです。
貸倒引当金は、「貸倒引当金繰入」として前年度に費用計上したものなので、前年度以前に売上収益を計上したものに充てます。
このポイントは、簿記2級の検定試験でよく出題されますが、3級でもたまに問われますので要注意です。