前講のように、現金は現物と帳簿の一致を管理しなければならず、不一致の場合は過不足の会計処理のみならず、担当者の管理不行き届きやあらぬ疑いもかけられる恐れがあり、担当者としてはなるべく現金取引は避けたいものです。

一方、日常の交通費やその他雑費といった、こまごました支払いはどうしても避けられません。

また、会社の規模が大きくなると、営業セクションや購買セクションなど、組織が分化し、現金を使う各担当者が、使うたびに金庫のある経理セクションまで来て、その都度金庫を開けて現金を渡して・・・とやっていては、現金を毎回取りに行く担当者も大変ですし、いちいち金庫を開けて現金を渡して記録をつける経理担当者も仕事になりません。

そこで、そのこまごました現金取引をその都度いちいち会計担当者が総勘定元帳に反映させるのではなく、一定額を小口現金として現場担当者に前渡ししておき、後で使った分だけ精算するというのが、この小口現金です。

1週間や1か月単位であらかじめ定額の小口現金を現場担当者に前渡ししておくやり方を「定額資金前渡制度(インプレスト・システム)」と呼びます。

【例15-1】
定額資金前渡制度により、会計担当者から事業担当者に今週分の前渡金として小切手\2,000を振り出して渡した。

次に、実際の現金取引をする現場の担当者がこの小口現金を経費に使ったらどうなるでしょう?

【例15-2】
事業担当者は、客先訪問のための交通費に¥600、事務用品に\500、切手代に\400、来客用茶菓子に\300を小口現金から支出した。     

【仕訳】なし

なぜ、小口現金から支出して小口現金が減っているのに、「仕訳なし」なんでしょうか?

仕訳や勘定記入をするのは会計・経理担当者です。小口現金制度はいちいち現場が現金取引した際にその都度記帳するのではなく、後でまとめて精算するやり方でした。ですから、現場担当者が実際に小口現金を何にいくら使用したかは、この時点ではまだ会計・経理担当者は知らないのです。

【例15-3】
事業担当者から、【例15-2】の内容のとおり1週間分の支払報告を受け、同額の小切手を振り出して補給した。
             

報告を受けた会計・経理担当者は、ここで初めて各費用に計上します。

【小口現金支出の仕訳】

(借)旅費交通費 600 (貸)小口現金 1,800

   消 耗 品 費 500

   通 信 費 400

   雑   費 300

と同時に、使用して減った分だけ小口現金を補給します。

【小口現金補給の仕訳】

(借)小口現金 1,800 (貸)当座預金 1,800

なお、消費して貸方に計上する小口現金勘定と、その同額を補給し同じ小口現金勘定の借方に計上するので、小口現金勘定自体を省略する仕訳もOKです。

日商簿記検定の仕訳問題では、勘定科目の選択肢にもし「小口現金」勘定がなければ、次の仕訳になります。

【仕訳】

(借)旅費交通費 600 (貸)当座預金 1,800

   消 耗 品 費 500

   通 信 費 400

   雑   費 300

ところで、小口現金を預かり支出を管理する各セクションの小口現金担当者は、日々の小口現金の支出と、経理セクションへの報告のために「小口現金出納帳」という帳簿(補助簿)をつけて管理します。

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