費用・収益の繰延そして見越は、落ち着いて考えないと、あせってどっちがどっちだかわからなくなるので、狙われます。
特に日商簿記検定3級の第2問や第4問でこの繰延・見越と勘定記入を絡めた出題がなされると、かなり難易度が高くなります。
しかし、理屈や言葉の意味(繰り延べる・見越す)を落ち着いて考えれば心配いりません。
つまり、
・・・「先延ばし」にする=後に計上するのか、
見越・・・「見越して」あらかじめ前に計上してしまうのか
まずは、繰延から学習します。

繰延

【設例】
1月1日、火災保険(保険期間1/1~12/31の1年契約)に加入し、1年分の保険料¥120,000を現金で支払った。
(会計期間は4/1~3/31)。

【仕訳】
(借)保険料 120,000
/(貸)現 金 120,000

当店は、3/31決算です。
「保険料」は費用の科目なので、このまま何もしなければ、決算時のP/Lには、この保険料¥120,000が当期の費用として計上されます。
(ちなみに、保険会社でもない限り、保険料といえば支払う側のはずなので、「支払保険料」の「支払」を省略して「保険料」とすることが多いです。)

でも、この保険料¥120,000(=月額¥10,000)は、向こう1年分を先に一括払いしているので、実は次年度(4/1~12/31)分も含まれています。

次年度分の前払いした費用まで、当期の3月末決算で当期の成績としてP/Lに計上され、逆に次年度のP/Lには1円も費用に計上されない・・・

このままだと、どのような影響(弊害)が起こると思いますか?

本年度の決算の損益に不利に計算され、逆に次年度決算の損益にプラスに働きます。

これではP/Lが本当の意味での営業成績を表していないことになります。

そこで、一括払いした保険料¥120,000を、月割りで計算して、本年度分と、次年度分に分けることが必要になります

つまり、1~3月の3か月分(¥30,000)だけ、当期の決算のP/Lに反映させ、残り9か月分(4~12月分¥90,000)は、次年度に持ち越します。

これを「繰延」といいます。
(「保険料」は費用なので、本設例は「費用の繰延」になります。そして、繰延を含む、こうした決算の数字を正しく反映させるための手続を「決算整理」といいます。)

では、実際の会計処理はどうするのか?

まず、借方の保険料勘定から、次年度分(¥90,000)を減らします。
費用を減らすので貸方ですね。

【決算整理仕訳】
(借)??? 90,000
/(貸)保険料 90,000

では借方は?

「前払保険料」という科目になります。これは、
「次年度の分まで先に払ったので、その分、来年度は4~12月分は払わなくても恩恵が受けられる権利」
ということで債権=資産になります。

費用が資産に化けましたね

こうすることで、本年度決算のP/Lには、1~3月分の¥30,000だけが、費用として計上され、4~9月分の「前払保険料」は資産(繰延資産)としてB/Sに計上されます。

次に、本年度の決算が終わり、新年度になりました。

そうしたら、新年度すぐに、「前払保険料」の繰越残高¥90,000を、また「保険料」勘定に戻します。
新年度の費用になるからです(このように、期首に戻すことを「再振替」といいます。)

【期首再振替仕訳】
(借)保 険 料 90,000
/(貸)前払保険料 90,000

この「再振替仕訳」は、「決算整理仕訳」のときと、反対仕訳、つまり借方/貸方が逆の仕訳ですね。

「万一の火災の場合に保険金を受け取れる権利なのだから、そのまま「前払保険料」の資産科目のままでいいのでは?」

でも、12/31を過ぎれば消えてなくなるので、今度の決算のときには、「保険料」として費用→P/Lへの計上になります。

つくづく、費用は資産のバリエーションなんだなと思います。

ところで、今の例で立場が逆になり、当店が保険屋さんで、先に次年度分までの保険料を一括で受け取っていた場合は、次年度に属する部分の収益を次年度に繰り延べます。その場合は「収益の繰延」といいます。

【まとめ】
「繰延」:費用(または収益)を先に支払い(受取り)、決算時に次年度分を当年度の費用(または収益)から切り離して先送りすること

次回は、繰延と真逆で紛らわしい「見越」についてです。

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